肥前名物すっぽん煮

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『鯛百珍料理秘密箱』レシピ一覧 


肥前名物すっぽん煮のレシピ


薩摩名物ころ煎鯛は、江戸時代の1785年に出版された『鯛百珍料理秘密箱』に掲載されている64番目のレシピである。『鯛百珍料理秘密箱』原文には以下のような説明がある。

【 鯛百珍料理秘密箱 】肥前名物すっぽん煮
此国にはすつほんたくさんにあり、杵島と申す所なり。女にてもくらふ也。鯛の料理も同じ。

一、鯛を二枚にをろし、ごまの油にて、さつとあげて、鍋にあぶらをいりつけ、此中へねきを一寸ほどに切て入れ、醤油、酒、水同しほとづつ、汁沢山にしかけ煮る、此中へ右鯛を見合に切り入煮也。出し候ときに、をろし生姜を置て出す、此国には惣して魚るいを煮るいを煮るに、すっぽん煮と申候なり。此杵しまの名ふつにて、風味しごくの者なり。


鯛百珍料理秘密箱

肥前名物すっぽん煮


【 肥前名物すっぽん煮 訳文 】
肥前の杵島という所にはすっぽんが沢山おり、女もすっぽんを食べる。鯛料理も同様である。

一、鯛を二枚におろして、これを胡麻油でさっと揚げておく。
鍋に油を熱しておき、その中にネギを3cmほど切ったものを入れ、醤油、酒、水を同量ずつを沢山入れて煮る。この中に先ほどの揚げた鯛を適当な大きさに切って入れて煮る。
出す時にはおろし生姜を置く。肥前の国は総じて魚類を煮ることをすっぽん煮と言う。これは杵島の名物で至極風味が良い。



レシピ解説

この料理が食べられていた場所は、肥前の杵島きしまである。杵島とは現代の佐賀県杵島郡の地域である。この地域には六角川と牛津川が流れ、さらにそこから隅々にまで水路が張り巡らされて田畑に水が豊富に供給されている。こうした水の豊富な環境はすっぽんに適しており、多くのすっぽんがこの地域で取れたことから、魚類を煮ることをすっぽん煮と呼ぶようになったのだろう。

ただ現代ではこの地域で多くのスッポンが獲れるということもなく、郷土料理としても伝えられていないようである。肥前名物とあるが途中で途絶えてしまったか、あるいはごく一部の人々の間で名物とされたものが伝えられて『鯛百珍料理秘密箱』に記録されただけなのかもしれない。

佐賀県杵島郡

佐賀県杵島郡


すっぽん煮の特徴は、最初に鯛を揚げておいて、それから煮ることであり、これは卓袱料理の料理方法の特徴である。現在の佐賀県は長崎県と同じく肥前国に属していたので、このような卓袱料理の調理法が伝えられたと考えられる。

醤油、酒、水を、同量で沢山入れて煮るとあり、濃いめの汁の多い煮汁で味を全体に含ませる料理方法がとられている。現代的なレシピではこの煮汁に味醂も加えることで、より味に厚みを持たせることが出来るのではないだろうか。


調理方法

調理方法の説明には「鯛をおろしてごま油で揚げる」としか記されていないが、そのまま揚げるよりは、薄っすらと小麦を振ってから揚げた方が良さそうである。こうして揚げることで鯛にごま油の香りと味にこってりとした厚みを持たせることができる。またそのまま煮るよりも、そちらの方が煮崩れしにくく、まとまりのある仕上がりにすることが出来るだろう。


現代のレシピ

肥前名物すっぽん煮のレシピを記しておく。

鯛を二枚におろし、適度な大きさに切り分けて薄く小麦粉を振っておく。
太白ごま油を熱して、鯛を揚げる。
 ↓
鍋に油を引いて3cmぐらいに切ったネギを炒めて香りを出す。
ネギに火が通ったら醤油、酒、水を同量ずつ入れる。
味醂で味を調整する。
 ↓
鍋に先ほどの揚げた鯛を入れて煮る。
 ↓
ネギを散らし、おろした生姜を添えて出す。