正覚坊



しょうがくぼう



総 論

アカウミガメと並んで日本近海でよく見られるウミガメがアオウミガメ。一度だけだが、御蔵島の海に潜った時に幸運にも野生のアオウミガメを見ることができた。今でも忘れられない思い出だ。  さて、このアオウミガメは正覚坊なる別称を持つことで知られている。「正しく覚(悟)った坊主」と言うことだから、さぞや格式ある名前なのかと思いきや、実は大酒呑みを差す隠語でもあるらしい。  では何故にウミガメ=正覚坊=大酒呑みなのだろう?  まず先に正覚坊が大酒呑みを意味することなら、何となく想像がつく。不飲酒戒であるはずの坊さんが陰で般若湯(と称した酒)をしこたま飲んでいることを揶揄した、いわば庶民の知恵の所産である洒落た悪口なのだろう。  次にウミガメと坊主との結びつきだが、この辺りは中国の妖怪和尚魚からきていると思われる。和尚魚は身体がスッポン・顔は人間・頭は無毛・体長1メートル半を優に超える妖怪のことで、日本風に分かりやすく言えば海坊主のことだ。  この妖怪はサイズや容貌から明らかにウミガメがモデルだと思われる。  海中から頭部を出したウミガメはまさに入道といった観があるし、捕まると手をすり合わせ「涙を流して」助けを乞う、と言うあたりもウミガメの生態を想像させる。実際ウミガメが上陸時に涙を流すのは有名な話で-体の中の余計な塩分を排出しているだけなのだが-昔のヒトは泣いていると思えたのだろう。    つまり正覚坊にせよ、ウミガメにせよ、あまりイメージのよろしくない坊主といった意味合いで並列となるのだ。  日本の沿岸ではかつてウミガメが網にかかると、漁師はその頭に酒をかけた上で放してあげていたことが、南方熊楠の著書などに記されている。その光景からもウミガメ=正覚坊=大酒呑みといった連想がうかがえる。

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正覚坊:豊島与志雄

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